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最高裁判所第二小法廷 昭和62年(行ツ)97号 判決 1988年1月18日

青森市新町一丁目九番二六号

上告人

有限会社武田開発商社

右代表者代表取締役

武田政治

右訴訟代理人弁護士

尾崎陞

清宮国義

青森市本町一丁目六番五号

被上告人

青森税務署長

石田誠一

右当事者間の仙台高等裁判所昭和六二年(行コ)第一号法人税額の決定等取消請求事件について、同裁判所が昭和六二年六月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人尾崎陞、同清宮国義の上告理由について

本件訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づいて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 香川保一 裁判官 奥野久之)

(昭和六二年(行ツ)第九七号 上告人 有限会社武田開発商社)

上告代理人尾崎陞、同清宮国義の上告理由

原判決は、控訴人の本件訴えは、審査請求前置を欠いて不適法であるから却下すべきものであるとして、第一審判決を容認し、控訴人の控訴を棄却したが、原判決には、行政事件訴訟特例法第二条、国税通則法第一一五条同法第七七条第三項の解釈適用を誤つた違法がある。

上告人の本件訴訟は、被告人が昭和六〇年六月二七日付法第三四四号をもつてなした昭和五七年五月一日から昭和五八年四月三〇日までの法人税についてなした決定及び加算税の賦課決定(以下原処分という)は、いづれも違法であるから取消を求めるというにある。

ところで、上告人は、原処分を不服として、被上告人に異議申立をしたところ、被上告人は、昭和六〇年二月一四日これを棄却する旨の異議決定をなし、

該異議決定書は同月一六日上告人に送達され、上告人は昭和六一年一月一七日付発送にかかる郵便をもつて国税不服審判所長にたいし審査請求書を提出したが、同審査請求は、国税通則法第七七条第二項所定の不服申立期間である一か月を徒過した不適法なものとして却下した。

そして、第一審判決は、国税に関する法律に基く処分の取消を求める訴えについては、国税通則法第一一五条により審査請求をすることができる処分にあつては同請求についての裁決を経なければならない旨のいわゆる審査請求前置が定められていたところ、審査請求前置の要件が満たされたといえるためには、審査請求をしたというだけでは足りず、これが適法に提起され、本案について裁決を受けることを要するとして、本件訴訟は、審査請求前置の要件を欠き不適法なものとし、第二審判決もこれを是認した。

しかし、第一、二審判決とも次に述べる理由により違法である。

一、 行政訴訟において訴願前置主義をとつているのは、行政について違法、不当がある場合、できれば、行政庁自らの手で解決し、司法を煩らさないのが、法律制度として好ましいということから生れたものである。すなわち、訴願前置に関する法則は、行政の自己規制をうながすに過きず行政行為が、私権を侵害するような場合、その終局的救済としての司法の役割を排除したものではないのである。行政事件訴訟特例法第二条はこのことを明らかにした法案である。

本件において、上告人の訴えの趣旨が、被上告人の原処分が不適法であることを主張するものであるから、上告人の異議決定にたいする審査請求が国税通則法第七七条第二項の不服申立期間である一ケ月を経てなされたとして却下されたとしても、上告人が司法救済を求めるため原処分の取消を求めた本件訴訟は適法であり、これを却下した第一、二審判決は破棄を免れない。(最高裁、昭和三四年(オ)第九七三号、同三六年七月二一日二小判決、最高裁民集第一五巻七号一、九六六頁以下参照)

二、 第一、二審判決は、ともに、異議決定書が昭和六〇年一二月一六日、青森市の上告人本人宛に送達され、同人から東京の上告代理人に回送され、同年一二月二〇日同代理人に到達し、同代理人事務所員が押捺した受領日付印を決定書送達日と誤認したため一か月を経過して審査請求が提出される至つたとしても、国税通則法第七七条第三項にいわゆる「やむを得ない理由」に当らないと判示している。

しかし、この判示は、右法条の解釈、適用を誤つたものである。

(一) 右異議決定書送達日誤認の誘因をなしたのは、被上告人が、異議決定書を上告代理人ではなく、上告人本人に送達したことによる。

本件異議申立は、上告代理人が、申立代理人に選任され、代理人名を表示して申立てられているのである。このように異議申立代理人として辯護士が選任されている場合は異議申立手続は、本人ではなく、代理人を介して進められるべきである。したがつて異議決定書は、本人ではなく、代理人に送達するを相当とする。

被上告人が、異議決定書を上告人本人に送達したのは、違法でないとしても不当であるというべく、これを看過した国税不服審判所の審査却下決定は違法であり、これを容認した第一、二審判決も違法であるから破棄を免れない。

(二) 本件のように、異議申立および審理請求本人の住所地が青森市、その代理人辯護士の法律事務所々在地が東京都、審査請求の期間たる国税不服審判所々在地が仙台市というように、それぞれ遠隔の地にあり、通信連絡に相当の日時を要する場合には期間計算等につき或る程度の許容を認むべきことは条理上当然である。この点について配慮せず、やむを得ない理由がないとした第一、二審判決は違法といわねばならない。

以上

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